「近代国家として驚くべきこと」「性教育の文言が検閲されていると聞く」

 2024年10月、「世界の女性の憲法」と呼ばれる女性差別撤廃条約に照らし、日本の法制度や政策を審査する女性差別撤廃委員会の会合がスイス・ジュネーブの国連欧州本部で開かれた。冒頭の言葉は日本の状況を知った委員がその席上で発したものだ。

 2024年に世界経済フォーラムが発表したジェンダー・ギャップ報告では、146カ国中118位―。近年、下位に甘んじている日本。「周回遅れ」から抜け出せないのはなぜなのか

 会合を経て、委員会は課題の改善を厳しく指摘する勧告を出した。衆院選でも話題になった選択的夫婦別姓のほか、人工妊娠中絶、皇位継承を男子に限る皇室典範などが対象になった。ジュネーブでの議論と勧告内容、さらに当事者の声から、ジェンダー平等に向けた日本の今を探る。(共同通信=村越茜、松本智恵、小川美沙)

 ▽世界の大きな潮流の中で

 【勧告】刑法を改正し、中絶を「非犯罪化」せよ。中絶の配偶者同意要件は撤廃し、経口薬を含む中絶や緊急避妊薬などへのアクセス改善を

 「本当でしょうか。近代国家として、巨大な経済を有する国の一つとして、非常に驚くべきことです」。2024年10月17日、ジュネーブ欧州国連本部の会議室で、委員の1人が目を見開き信じ難いというような表情を浮かべた。直前には日本のこども家庭庁の担当者が、人工妊娠中絶に関する母体保護法の規定で、死亡や行方不明の場合を除き原則として夫の同意が必要とされると説明した。

 「私の体のことは私が決める」との言葉が象徴するように、中絶を女性の基本的権利と位置づけるのは世界の大きな潮流だ。国際団体「センター・フォー・リプロダクティブ・ライツ」によると、30年間で60以上の国や地域が中絶を自由化するために法改正を行った。フランスは2024年、中絶の自由が将来的にも脅かされないよう、憲法に明記した。

 しかし日本では明治以来の「堕胎罪」がいまも有効だ。中絶は「経済的理由」がある時など、一定の条件下で認められているだけ。配偶者の同意を求めるのは、日本以外にはサウジアラビアやトルコなど少数派だ。委員は「最低でもこの同意要件をなくすことは検討できないのでしょうか」とも質問したが、政府の担当者は「個人の倫理観や道徳観に深く関わる」などと見通しすら答えなかった。

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