富士山を間近に望む山梨県富士河口湖町に、「コンビニの上に乗っているような富士山を撮影できる」と外国人旅行客の間で人気の写真スポットがある。青と白の店の看板と、屋根越しに見える美しい山肌がマッチした美景を求めて訪れる人は絶えない。

 だが、過熱した観光地化は地元に深刻な悩みをもたらした。道路にはみ出して撮影したり、横断歩道がないところで車道を横切ったり、さらには私有地へのゴミのポイ捨てや無断駐車―。業を煮やした富士河口湖町は2024年、コンビニと反対側の道路沿いに巨大な黒い幕を設置し、物理的に撮影できないようにした。

 幕は約3カ月後に外され、トラブルはいったん落ち着いたが、「警備員がいない時間は無法地帯だ」と明かす住民も。再びマナー違反の横行が懸念されている。(共同通信=高野陽子)

 ▽「撮らせない」「撮りたい」のいたちごっこ

 撮影スポットは、富士急行の河口湖駅から徒歩3分ほどにあるローソン河口湖駅前店の周辺。富士河口湖町によると、2022年からSNSの投稿が外国人の間で話題になり、人気に火が付いた。

 町は2023年、道路標示や多言語の注意看板を置き、警備員を配置したが、2024年に入ると外国人観光客を中心に撮影者が急増した。それに伴い迷惑行為も増え、周辺住民からは「対策を取ってほしい」との要望が町に届くようになった。

 対応を迫られた富士河口湖町は2024年5月、強硬手段に出る。コンビニと反対側の道路沿いに約20メートルにわたり出現したのは、高さ約2・5メートルの巨大な黒い幕と、支えとなる柱だった。

 渡辺英之町長によると、目的は観光客と車の事故を防ぎ、住民の平穏な生活を守るため。町長は「必要な措置だ」と理解を求めた。

 だが撮影者側の熱意は簡単には衰えず、その後、幕は穴が開けられたり破られたりする被害に何度も遭った。

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