多様な背景を持つ学生に門戸を開くはずの大学の総合型選抜(旧AO入試)なのに、経済力がないと試験で求められる「経験談」が得られない。これでは教育格差が進む一方ではないか―。そんな危機感を抱いた学生たちによるNPO法人「BORDER FREE」(東京)が、高校生にカフェの経営を通じて無償で社会経験を積んでもらうプロジェクト「ハイスクールカフェ」を始めた。
総合型選抜では「主体性を持って取り組んだ経験」などが問われることが多いが、定番の習い事や留学には費用がかさむ。さらに総合型選抜対策の専門塾も乱立し、受験産業の草刈り場になっている現状がある。(共同通信=武田惇志)
▽肌感覚の経済格差
昨年11月、東京都新宿区のイタリア料理店で、高校2年の杉山のんさん(17)がエプロン姿でソーダやパスタを運んでいた。全て、プロジェクトのメンバーと考案したオリジナルメニューだという。
杉山さんは「BORDER FREE」によるプロジェクトへの参加者募集に応じた一人。理由を聞くと、こう説明してくれた。
「以前から経営に興味がありました。また、裕福な家庭の同級生はよく海外に行って豊かな経験を積んでいる一方、自分はそうじゃない。生徒間にも経済格差があるのを、肌で感じてもいます」
プロジェクトを企画した「BORDER FREE」はこれまで、都内を中心に学習教室などを開いて教育支援を展開してきた団体だ。その過程で、総合型選抜の現状にも意識を向けるようになったという。
2021年度にAO入試から名称変更された総合型選抜は現在、多くの大学で広がりつつある。選抜方法は多様で、小論文やプレゼンテーション、英検など検定試験の成績提示などがあるほか、大学入学共通テストを課す大学もある。高校時代の経験が問われるのは、主に小論文やプレゼンテーションの場だ。
総合型選抜対策の専門塾も乱立する。「BORDER FREE」による調査では、入塾料で2万~4万円、月額では5万~7万円ほどが相場だという。
▽危機感
「総合型選抜は現状、教育格差が拡大する温床になっているのではないか?」。そんな危機感を抱いたのが、「BORDER FREE」メンバーで早稲田大2年の小島慶久さん(20)だった。