映画を中心に多くの名作を残した俳優高倉健さん。2014年11月にこの世を去って10年が過ぎた今も、ファンから「健さん」と呼ばれ愛されている。代表作「幸福(しあわせ)の黄色いハンカチ」(1977年公開)や、「遙かなる山の呼び声」(1980年)を手がけた山田洋次監督(93)に、その魅力を聞いた。(共同通信=松本はな)

 ▽帰り際、お辞儀をして「今日はうれしい日です」

 「幸福の黄色いハンカチ」は、北海道の網走刑務所を出た男が、別れた妻とかつて暮らした夕張へ、まだ自分を待っていてくれるのではないかという淡い期待を胸に向かうロードムービー。

 「アメリカのヒット曲が原作で、日本を舞台にしようと。主人公は誰だろうと2~3カ月も考えたような気がする。ある時、誰かに『高倉健はどうだ』って言われたんだ。当時やくざ役ばかりやっていた人だから、最初はとんでもないと思った」

 やくざ映画を見て、決して芝居がうまい俳優ではないと感じる一方、「やっぱり健さんが出なきゃ面白くない」という印象を抱いたという。

 「彼がいいのは目だと思うね。とっても真剣なんだ。もしかして、普通の人と違う“いちずさ”を持っている人なんじゃないか。そこで思い切って会ってみようとなった」

 連絡を取ると、健さんは1人で車を運転し、監督の仕事場である旅館にやって来た。

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