新聞やテレビなど、既存のメディアに対する不信感が高まっている。不信感はなぜ生まれたのか。その背景に何があるのか。ジャーナリストの西岡研介さんは、昨年の兵庫県知事選で被害者として振る舞った斎藤元彦氏が巧みに支持を広げていった経緯を振り返り、「公正な選挙」を標榜するメディアは選挙報道の在り方を見直すべきだと訴えた。(聞き手 共同通信=佐藤大介)
▽「つるし上げられた」斎藤氏への共感が反メディア感情と結びついた
今回の兵庫県知事選は、私自身が有権者ということもあって注視していましたが、元尼崎市長の稲村和美氏が敗戦の弁で「何と向かい合っているのかという違和感があった」と述べたことが象徴的です。
斎藤元彦氏は、自身のパワハラなどが告発された文書や公益通報者への対応をめぐって、「知事の資質」を問われ、失職した。そのことが争点だったはずなのに、既得権益とそれに対抗する斎藤氏という図式となりました。
疑惑の内容についてメディアが取材し、批判するのは当然ですし、そうした事態を招いたのは斎藤氏の政治家としての未熟さにあります。しかし、選挙戦では、斎藤氏がメディアから攻撃を受ける被害者として振る舞い、過熱報道に反感を抱く有権者と結びついてしまいました。
斎藤氏が議会で批判され、不信任決議を突き付けられて失職した段階では、斎藤氏の支持は大きくありませんでしたが、知事選の告示後に流れが変わった印象です。組織的ではなく、普通のサラリーマンや主婦、学生が街頭演説に集まり、斎藤氏を「かわいそう」と応援する人たちが、急速に増えて行きました。そこに共通するのは「マスゴミ」と反メディアの姿勢です。
斎藤氏に対するメディアの批判は、テレビのワイドショーが加わったことで過熱状態となり、客観的に見ても「ちょっとやり過ぎでは」と思えるほど、つるし上げのような状態になりました。これが反メディアの感情を高める引き金になったのではないかと思います。
メディアが権力者を批判するのは当たり前のことで、それを変える必要は全くありません。しかし、斎藤氏が巧みだったのは、自分は「県議会やマスコミに負けない」と主張し、そうした勢力と戦っているという図式を描いたことです。そこに交流サイト(SNS)で、斎藤氏に有利な情報が「隠された真実」として流布されました。
▽「取材を尽くして事実を書く」メディアは原点に戻るべきだ
兵庫県知事選を通じてあらためて思ったのは、メディアは選挙報道の内容を変えるべきということです。