新聞やテレビなど、既存のメディアに対する不信感が高まっている。不信感はなぜ生まれたのか。その背景に何があるのか。情報社会学者の塚越健司さんは、SNS上の根拠のない情報を信じる人たちは「自分で検索し、調べた情報」だからこそ信じようとする傾向があると話す。(聞き手 共同通信=佐藤大介)

SNSにあふれる不安のはけ口、インフルエンサーが触媒になって一気に爆発

 現代は「正義」よりも「共感」の時代です。政治家もアイドルのような「推し」の対象となり、人々は交流サイト(SNS)を通じて努力し続ける姿を目にし、共感して応援するようになったと感じます。一方、推しと共感の世界には、不都合なことは議論されづらいという特徴があります。

 推しの姿から自分のすべき役割を与えられた気持ちになれば、不安が消えて楽になり、元気が出ます。メディアは権力を監視し、批判する役割がありますが、政治家が推しの対象となると、推しを批判するメディア報道はしっくりこない。すると、メディア報道は既得権益の代弁ととらえられ、不信感が強くなります。兵庫県知事選で斎藤元彦氏を支持した人にも、そのような傾向が見受けられました。

 斎藤氏に投票した人には、陰謀論的な主張の影響を受けた人が少なくなかった、といった研究もあります。しかし、そのことを上から目線で批判するよりも、どのように情報が流布されていったかを考えることが重要です。

 確かに新聞やテレビといった既存メディアも、メディアスクラムなどの取材方法の問題が、以前から指摘されてきました。少しずつ問題点は改善されつつありますが、SNSなどの新興メディアを利用する人の中には、既存メディアに対する潜在的違和感をすくい上げることで、影響力を拡大する人もいます。

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