宿泊施設内での各種サービスが追加料金なしで楽しめる「オールインクルーシブ」が全国的に広がる中、富山県内でも導入施設が増えている。会計を気にせず過ごせる安心感、多彩なサービスに対する割安感が人気だ。施設側にとっても手続きが簡略化され、接客に集中できるメリットがある。

 「アパホテルステイ富山」(富山市窪新町、274室)は、全国にホテルを展開するアパグループ(東京)で初めてオールインクルーシブを導入した。旧「アパホテル富山」を全館改装し、2024年2月に新ブランドとしてオープン。シングルは7千円からで、朝食ビュッフェ、ドリンクサービス、夜食の「アパ社長カレー」、サウナ、駐車場などが無料となっている。

 オープン前と比べて稼働率は2割程度高まった。個人客が大幅に増え、かつて5割を占めたツアー客は1割未満となっている。砂畑昌志総支配人は口コミサイトでの評価に触れ「満足度が高くリピーターにつながっている」と手応えを語る。

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 21年11月にオープンした高岡市福岡町五位の温泉旅館「越中五位花尾温泉 山帽子」は、菓子類、飲料を全て無料にしている。旧「ロッジ山ぼうし」の建物を全面改装し、全7室に源泉かけ流しの露天風呂を備える。立花雄一支配人は「『オールインクルーシブ』が宿を探すキーワードになっている。アルコール類を楽しむお客様には特に好評だ」と話す。

 オールインクルーシブに含まれるサービスは飲食だけではない。フランスの大手ホテルチェーン「アコー」が運営する「メルキュール富山砺波リゾート&スパ」(砺波市安川、249室)では書道や水引などの制作体験をはじめ、県内の民謡に使われる楽器演奏、編み笠の試着といった体験メニューを用意する。親子やインバウンド(訪日客)の利用が目立つという。クラシックツイン(2名1室)1泊で1人当たり1万9500円からとなっている。

サービス向上

 アコーは2024年春、全国の「グランドメルキュール」「メルキュール」のうち22施設でオールインクルーシブを導入し、地域色豊かな飲食、体験を提供している。メルキュール富山砺波リゾート&スパの大東宏史支配人は、オールインクルーシブによる分かりやすい体系が従業員にもプラスになっているとし「お客様に向き合うことに集中でき、サービスの質向上につながっている」と話す。

背景に旅行様式の変化

 オールインクルーシブはリゾート地での新たな宿泊スタイルとして始まり、都市型ホテルに広がっている。観光学が専門の一井崇富山国際大准教授は、個人や小グループでの旅行が主流となり「宿泊施設はより個人のニーズに合ったサービスの提供にシフトしている」と背景を指摘する。

 施設側にとっては業務の効率化に加え、飲食関連の消費を囲い込むことができ、収益確保にもつながる。

 ただ、多様なニーズを全て網羅することはできないため、家族や若年層を中心に特定の顧客の支持にとどまるとみる。「トレンドではあるものの主流にはならないだろう。施設側には顧客を飽きさせない質の高いサービスの継続的な提供、定期的なリニューアルによる目新しさの発信が求められる」と提言した。