スポーツで学んだこと 人生を豊かにする鍵に
―次世代を育てる「シュガーエリート」の活動に力を入れています。その理由は?
アスリートは、それぞれがやっている競技の良さを伝えることが一つの使命です。ただ自分たちがいろいろ挑戦し、学んできたことの中には、スポーツの世界だけじゃなく、現代の世の中を幸せに生きていく、人生を豊かにしていくために必要なことが、たくさんあると思うんです。そういうことを伝えていくことで、世の中を少しでも元気にしていきたいというのが究極の目標ですね。
今回の「シュガーエリートキッズ」では、夢に向かって挑戦することが、自分の人生を豊かにしていくことを伝えましたが、それ以外にも、もっともっと伝えたいことがある。なので、この活動はずっと続けていきたいですし、僕だけじゃなくて、多くのアスリートにも参加してもらいたいと思っています。
人と比べがちな世の中に危機感
―大迫さんは、プライベートでは小学生と3歳の女の子のお父さんです。親としての視点が加わったことも、何か影響したのでしょうか。
確かに自分が親になって、子どもに何ができるのかを考えたことも「シュガーエリート」を始めるきっかけの一つです。
また最近のこのコロナの情勢や、SNSが普及する社会を見ていて、みんな自分と向き合うことや、主語が自分になることを忘れているなと感じていたこともきっかけとなっています。
例えば、せっかくおいしくご飯を食べていても、SNSで他の人がもっと高価な物を食べているのを見たら、急に自分が劣っているように感じたりしますが、実はそうではなくて、自分がおいしいと思ったことが幸せなんです。
現代社会は、情報がたくさんあるのでつい人と比べがちですが、このままだと幸福度が下がってしまう。そんな危機感から、プログラムでは夢を持つことは他人を気にすることではないんだよということを、子どもたちに伝えています。
夢は達成することだけが目的ではない
―プログラムの中で「夢について何を言われても気にしなくてもいい。夢については自由だから」と何度も話しておられるのが印象的でした。大迫さん自身も、そういう言葉を跳ね返してきたのでしょうか。
そうですね。今になって思うのは、僕が子どものころ「夢って達成することが目的じゃなくて、夢を持つことによって挑戦することが目的なんだよ」ということをちゃんと教えてくれる人がいたら、僕も周りの人も、何かが違っていたんじゃないかなということ。そういう思いが、この活動につながっています。
―最後に、子どもを見守る大人たちにアドバイスを。
僕自身、子どもが「やりたい」ということは否定しません。応援するだけと決めているので。そのほうが、感性が磨かれるのではないかなと思っています。親も子もお互いの自由を意識することが大事ではないでしょうか。
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大迫傑(おおさこ・すぐる) 中学校で本格的に陸上を始め、佐久長聖高校から早稲田大へ。卒業後は日清食品グループ、ナイキ・オレゴン・プロジェクトを経てナイキ所属のプロランナーとして活動。2018年シカゴマラソン、2020年東京マラソンで日本新記録(当時)を2度更新。東京都出身、30歳。