引きこもりや不登校の若者の共同生活寮を30年間運営する ピースフルハウスはぐれ雲主宰 川又直さん


見守るだけでは限界

 大沢野町(現・富山市)万願寺に1988年、共同生活寮「ピースフルハウスはぐれ雲」を開設して以来、農業を通じて、不登校や引きこもりの若者たちの自立支援に取り組んでいる。

 共同生活のメリットは、立ち直るまでの期間の短さだ。寮生は相部屋で子ども同士でもまれるうち、自己中心的な考えが改められ、人との程よい距離感をつかめるようになる。

 初期の頃は中高生がメインだったが、現在は引きこもりが長期化し、20、30代も増えている。92年に文部省(現文部科学省)が「不登校はどの子にも起こり得る」との見解を示して以降、親の意識が変わり「うちの子だけじゃない」と危機感が薄れたからだ。

 家族に対してはこれまで、本人が回復するまで「見守りましょう」「待ちましょう」という対応が正しいとされてきた。半年ぐらいまでは待ってもいいが、1年以上続くなら何らかの働き掛けをすべきだ。

 13歳から3年間引きこもっていた子どもの場合、親がカウンセラーから「刺激を与えず見守ってあげてください」と言われ、その言葉通り見守り続けた。しかし、3年たっても状況が変わらないことに疑問を感じ、はぐれ雲に相談してきた。家庭訪問すると、本人は長期間、1階の自室に閉じこもり、階段を上れないくらい体力が衰えていた。

 当事者の中には環境を変えるきっかけを待っている子もいる。引きこもりになった人たちはみんな、「こうなったのはお前のせいだ」「親のお前が何とかしろ」と親への恨みを口にする。他に当たるところがないから一番身近な存在の親に不満の矛先が向く。

 難しいのは優等生だった人が社会人になってから引きこもるケース。大学に進学し、就職するまで自信を持って生きてきた人の引きこもりは、10代にはない難しさがある。

 引きこもりの人は、全国に110万人いると推計される。大事なのは早期発見、早期対応。〝奇妙な平和〟が何十年も続き、「今が平和だからいい」「今さら何か言って怒らせたくない」と放置している家庭も多い。現場の立場から言うと、むしろ家庭で暴れている時が一歩を踏み出すチャンスだ。

 子が変わっても、親が変わらなければ意味がない。せっかく子どもがアルバイトできるようになっても、親が自分の敷いたレールに戻そうとして再び引きこもるケースもある。親は「子どもは子ども」と開き直ることが大事だ。

 今後は、農業を通じて社会復帰につなげる「農福連携」がますます重要になる。都会に引きこもっている人を田舎に呼び、グループホームや寄宿舎に住まわせ、農業をさせてはどうか。400余人を送り出してきた実績があり、有効な対策だと考える。

 かわまた・なおし 1954年、千葉県出身。静岡県の自立支援施設で働いた経験から、88年に「ピースフルハウスはぐれ雲」を開設した。以来、若者と一つ屋根の下で暮らし、自立支援を続ける。

 

「この人に聞きたい」は折々の社会現象を深堀する北日本新聞のインタビュー企画です。2019年7月1日掲載の「引きこもり どう支える」のテーマでは
「死ぬなら1人で死ね」発言にいち早く反論した NPO法人ほっとプラス代表理事 藤田孝典さん
長男が不登校と引きこもりを経験した「とやま大地の会」副代表 米谷貞𠮷さん
にもインタビューをしました。