長男が不登校と引きこもりを経験した「とやま大地の会」副代表 米谷貞𠮷さん
長男刺殺 同情できない
長男は受験を控えた中学3年の2学期から不登校になった。当時は学校へ行きたがらない気持ちを理解せず、「学校へ行かせなければ」の一心だった。親がひと言何かを言うと、反発して物を投げつけてきたり、障子紙を破ったりといった家庭内暴力もあった。
有り余ったエネルギーを発散させるよう、なるべく外へ連れ出して運動させるよう心掛けた。人目が気になる自宅近くは避け、新潟・糸魚川や石川県境まで車で出掛け、キャッチボールやランニングをした。体を使うと疲れ、食事や睡眠につながった。
息子は社会人になってからも2度引きこもった。息子からは「自分がこうなったのは親のせいだ」と突き上げられることがあった。だが、ある時、息子を呼んで、「今までいろいろ責め立てて悪かった」とわびると、ぱっと表情が明るくなった。その日を境に親子関係は変わり、夕食を家族3人で共にするようになった。現在は作業所で働き、家族会で自らの経験を語っている。「荒れていた時、両親に見放されていたら今の自分はない」と、感謝も口にするようになった。
当初は「甘やかせて育てたからだ」と自分を責めたし、周りから「いつまでそんなことをさせているんだ」とも言われた。本人だってこの状態が良くないことは分かっており、つらい思いをしている。親は理想を捨て、子どもの理解者になることが大事だ。親が厳しさを貫き続けると、子は追い込まれてつぶれる。
長男を刺殺した元農林水産事務次官の事件は、同情できない事件。引きこもっていたとされる長男はどこかでSOSを出していたはずで、わが子の言動につらさや悲しさを感じなかったのか。同じような状況にある親は、仕事よりまず子どもに向き合うべきだ。引きこもりが長期化すると諦める人がいるが、親だけは向き合い続けてほしい。
今、悩んでいる親御さんは家庭内に自室以外の居場所をつくってあげることが大切だ。そして、本人が居てくれるだけで幸せと感じてほしい。
引きこもりの家族のうち、実際、支援機関とつながる人は3割にとどまるとされる。まず近くの家族会や相談機関に出向いてほしい。動き出さなければ、いずれ親が年を取り子どもだけが取り残されてしまう。誰にも話せず一人で抱えていた思いを口に出すだけで、皆さん明るくなる。夫婦の意見が対立し家庭内で会話のなかった人が家族会に参加し、せきを切ったように話し出すこともある。
家族は24時間張り詰めた状態にある。当事者や家族に寄り添う保健所や厚生センターの相談スタッフ、NPOの支援者は、元当事者や引きこもり経験のある家族を持つ人に務めてもらえればと思う。
こめたに・さだよし 1946年生まれ。60歳で関西電力を定年退職し、家族自助会「とやま大地の会」に入り、2012年度から副代表を務める。富山市在住。
・「死ぬなら1人で死ね」発言にいち早く反論した NPO法人ほっとプラス代表理事 藤田孝典さん
・引きこもりや不登校の若者の共同生活寮を30年間運営する ピースフルハウスはぐれ雲主宰 川又直さん
にもインタビューをしました。コノコトで順次ご紹介します。