那須正幹氏の選評

那須正幹氏(写真)
児童文学作家
那須 正幹氏

読書の喜び満たす

 毎年9月末になると、北日本新聞社文化部の方が分厚い原稿の束を携えてわが家を訪問される。最終審査に残った20編の作品だ。翌日からこれらの作品を熟読し、2週間ほどかけて選考を終えることになる。

 さて、最終審査に残った作品であるが、今回は14回目ということもあり、応募作品数も前年より多かったと聞いているのだが、内容的にはやや低調だった。

 作品の完成度や文章などは、文句ない出来栄えなのだが、読了後の印象が薄い。要するに要領よくまとめているのだが、発想が月並みだったり、登場人物に魅力がなかったり、筋運びが平板で、結末のインパクトに欠けている。そんな作品が多かった。

 何度も読んだ末に、次の3編を選んだ。

 「白い手」は、北海道の牧場で暮らす小学6年と2年の兄妹の物語である。新学期早々季節外れの猛吹雪の中を家路に急ぐ兄妹は、雪の中でヒグマの母子に遭遇。危うく襲われそうになるが、車で迎えに来てくれた父親に助けられる。しかし、ヒグマの恐怖はそれだけではなかった。その夜、ヒグマが生まれたばかりの子牛とその母親を襲ったのだ。

 猛吹雪やヒグマの描写、それに出合った子どもたちの恐怖、あるいは酪農家族の心情など、かなりリアルに描かれていて読者をハラハラさせる。結末にもう一つ工夫があれば、もっと優れた作品になっていただろう。

 「キジ撃ち」は、よんどころなく親子登山の親役にさせられた中学生の佑季が、4年生の健介と一緒に春神山登山に出かける。佑季は、3年前の苦い経験から二度と山登りはしないことに決めていたのだが。

 佑季たちは同じグループの老人に連れられて山に登りはじめる。途中、グループの男の子が急に便意を催した。老人は佑季兄弟に見張りをさせ、男の子を連れて茂みの中に消えるが、やがて、すっきりした顔の子どもを連れて戻ってきた。

 実は3年前、これと全く同じ経験をした佑季は、二度と山に登りたくなくなったし、親友を1人失っていたのだ。佑季は、そのことを老人に話す。老人は、山の中で排便することをキジ撃ちというのだと教え、君はまだキジ撃ちの修業が足りないと諭す。

 排便にまつわるドラマというのは、子ども、特に男子には多い。この物語もそうした子どもの心理を取り上げているのだが、結末が大人の論理で処理され、子どもの出番がなくなってしまったのが、なんとも惜しい。

 「座布団いちまい!」は、徹頭徹尾どたばたナンセンスの世界なのだが、発想に個性があり、ストーリー展開もスピードがあって、子ども読者を飽きさせないものがある。

 ところどころに挿入されている会話やせりふも吟味されていて、主人公の語りと相乗効果を上げている。結末の付け方も文句ない。

 大変巧妙に組み立てられた作品というのが正直な印象だ。いわゆる職人芸といってよいだろう。しかし、それではこの作品に文学的な感動があるか、読者はこの作品を読むことにより、何らかの成長がみられるかと問えば、首をかしげざるを得ない。

 かくして以上3編を何度も読んだ結果、「座布団いちまい!」を最優秀賞に決め、ほかの2編を優秀賞に推すことにした。

 決定の理由は、やはり「面白さ」ということだろう。読書の魅力は、夢中になってページをめくるところにあり、日常の中で作品世界に遊ぶ時間を持つことが読書の楽しさだと確信するからである。読書による教育的効果は二の次三の次だと考えている。本編には、そうした読書の喜びを満たすものがいっぱい詰まっている。