受賞者紹介

 ワクワクする物語を子どもたちの手に-。全国から383編が寄せられた第12回北日本児童文学賞は、創意工夫が凝らされた幅広いジャンルの作品が集まった。入賞した3作品は、それぞれの視点から子どもと向かい合い、想像力をかき立てる。作者の横顔や作品に込めた思いを紹介する。優秀賞2編は12、13日の本紙に掲載する。

最優秀賞  藍沢 羽衣さん

「なぜ」が書く“燃料”

藍沢羽衣さん(写真)

最優秀賞受賞について「書く“道しるべ”になった」と語る藍沢さん=東京都内

プロフィル

あいざわ・うえ 1976年宮城県生まれ。岩手大農学部卒。会社員。ことし第12回ジュニア冒険小説大賞の佳作に選ばれた。

 現代の若者言葉で「KY」は「空気を読めない」ことを指す。しかし、この物語の中では逆。「空気を読む」ことを意味する。はっきりと他者に気遣いが求められるという少し息苦しい世界が舞台だ。小学校には空気を読む「読空(どっく)」という架空の科目が設けられ、テストまである。

 読空に苦手意識のある凛(りん)がクラスメートたちの間で板挟みになり、取るべき行動が分からないまま右往左往するというストーリー。物語のテイストは一見明るく爽やかだが、人間関係に思い悩むことが多い現代日本と地続きの世界は、実際にあり得そうで怖い。

 自身が勤めるIT関係の職場に着想を得た。「周りからよく『空気が読めていない』って怒られるんです」と笑う。大人に求められる常識も、子どもの目からはどう見えるか。自身に問い掛けるように書き進めた。「『なんで世の中こうなの』という疑問が書く“燃料”になった」

 かつては田んぼの周りを駆け回ったり、用水でザリガニを釣ったりする「野生児」だった。それでも「グループから外されないよう気を遣っていた」と振り返る。今はスマホやLINE全盛の時代。教室の人間関係は家庭にまで入り込む。24時間読空のテストを受けている状況かもしれないとし「私が子どもだったらしんどいですね」

 小説を書き始めたのは、大学を卒業した頃から。大人向けのミステリーを書いていたが、3年前に子ども向けのエンターテインメントに転向した。「体は大人ですけど、中身は子どもだと気付きました。胸の中の子どもが読みたいものを書きたくなった」と明かす。

 「落ち慣れした」というほど、文学関連の公募コンクールに応募しても、あと一歩のところで受賞を逃すことが多かった。「最優秀賞に選ばれ『この方向でいい』と道しるべを立ててもらいました」と声を弾ませた。

優秀賞  モーリッヒ ・ デ ・ アッキーさん

通い合う親子の心

モーリッヒ ・ デ ・ アッキーさん(写真)

モーリッヒ・デ・アッキー1979年長野県生まれ。早稲田大文学部卒、会社員。

 親子の心の通い合いを描いた温かな手触りの作品だ。

 物語はゴジラの背中にそっくりな、大きな木のある森の中で繰り広げられる。父を亡くした主人公の「ぼく」は、真夜中の墓場で少年と出会う。「ぼく」は少年に誘われるままに「ゴジラの木」まで冒険することになる。「ぼく」と打ち解け合った少年の正体とは-。

 双子の子どもの枕元で絵本を読み聞かせる中で、物語を思い付いたという。「普段は忙しくて子どもと遊ぶことができない。もっと一緒にいてあげたいという思いを込めた」と振り返る。

 子どもたちの冒険が生き生きと描かれる。父が子どもを見守るかのように終始優しい視線が注がれる。目くるめくような風景の変化も楽しい。「うちの子が大きくなったら読んでもらいたいけれど、照れくさいかな」と笑う。

 幼い頃から「ズッコケ三人組」シリーズの大ファン。図書館に新刊が入るたびに、夢中になって読んだ。「読書の楽しさはズッコケで知った」と明かす。今回応募したのも、選者が作者の那須正幹氏だったことが大きい。

 「那須先生に選んでもらえたということが本当にうれしい。表彰式でお会いできることを楽しみにしている」と目を輝かせた。

優秀賞  西野真弓さん

「ごっこ遊び」を描く

西野真弓さん(写真)

にしの・まゆみ 1972年神戸市生まれ。神戸国際大経済学部卒、執筆業志望。

 2年連続で優秀賞に選ばれた。うれしくもあり、悔しくもある。「ほっとした一方で、この1年だけでは書く技術は上がらなかったのかと思うと残念。やっぱり最優秀賞が欲しかった」と複雑な表情を浮かべる。

 幼い頃に誰もがしたであろう「ごっこ遊び」を作品のモチーフにした。子どもたちが浜辺で拾った漂流物を利用し、ファンタジー映画やテレビゲームのようにキャラクターを演じ、戦いを繰り広げる。登場人物たちは徐々に架空の世界に熱中し、壮大な世界を生み出す。「子どもたちに想像力があれば、夢はどれだけでも膨らむということを伝えたかった」と語る。

 ごっこ遊びという単純なモチーフだけで、作品の世界を描き切ることが一つの挑戦だった。「実力のある作家は日常生活の小さなことでも物語にする。主人公がバスを待つ短い時間にごっこ遊びをするという単純な枠組みで、どう魅力的に表現できるか試したかった」と明かす。試みが作品に結実したことは自信になった。

 北日本児童文学賞の表彰式のため、昨年初めて富山を訪れた。「前回ですっかりファンになった」と笑う。1月の全国高校サッカー選手権では、テレビの前で富山第一を応援していたという。