受賞者紹介

 子どもたちに物語の楽しさを伝え、心の糧となる作品を残したい。そんな願いを込めて創設した北日本児童文学賞は、ことしで第6回を迎え、国内外から438編が寄せられた。実力が伯仲する中、入賞を果たした3作は、いずれも子どもの心が豊かに成長していく過程を、丹念に描いた秀作だ。創作のきっかけや作品に込められた思いを作者の横顔とともに紹介する。優秀賞の2編は6、7日の本紙でそれぞれ全文掲載する。

最優秀賞  北詰 渚さん

携帯に宿った愛犬の魂

北詰さん(写真)

物語をつくる前に「必ず絵を描いて想像を膨らませる」という北詰さん。手にするのは受賞作のイメージ画=神奈川県横須賀市の自宅

プロフィル

きたづめ・なぎさ 本名・横山尚美(よこやま・なおみ)。昭和42年横浜市生まれ。高校卒業後、事務職を経て主婦。本年度の「ビーケーワン怪談大賞」で佳作入選。

 都心から急行列車で一時間足らず、海の気配漂う横須賀市のマンションに暮らす。近くに公園や学校があり、子どもたちの声が響く情景は、どこか受賞作の世界と重なり合う。

 物語の主人公ユキは、小学五年生の女の子。愛犬ミルクを交通事故で亡くして以来、すっかり元気を失っている。心の支えはミルクそっくりのアニメーションが内蔵された携帯電話だ。実はこの携帯、ミルクの魂が宿っているのだが、ユキにはうまく伝わらない。偶然事実に気付いた級友、ひろしにミルクはメッセージを送る。「ユキちゃんが元気になる方法を、教えて!」

 周囲の温かな思いに支えられ、少女は愛犬の死を乗り越えていく。その心境の変化が子どもと犬の視点から交互に紡がれる。「主人公の成長を描こうと思ったとき、何か環境の変化が必要だと感じた」。それがミルクの死だ。

 人ではなく愛犬を選んだのは、核家族化が進む中、子どもが最初に触れる死は、ペットの死かもしれないと考えたから。携帯電話という身近な道具も組み合わせ、親しみやすい物語づくりを心掛けた。

 ユキに立ち直りのきっかけを与えるひろしも、クラスの“お笑い担当”で、何かとユキに絡んでくるあたりに親近感がわく。それでいて思いやりに満ちた魅力的な人物だ。「私が思う理想の男の子。ユキのように一人で悩む子に、頼れる相手は意外と身近にいることを伝えたかった」

 物語を書き始めたのはここ数年だ。長男の拓未君(10)を育てる中で童話に触れる機会が増え、創作意欲がわいた。「一度アイデアをつかむと、わあっと書けるのですが…推敲(すいこう)に時間が掛かる」と笑う。友達やその子どもにも読んでもらい、率直な意見を作品に生かす。中でも拓未君は手ごわい。「積極的に感想は言いませんが、表情を見ていればわかる。『さては面白くないな』と」

 受賞作にも当初は結末が二つあった。携帯電話が壊れてミルクの魂が消えてしまう案と、修理して復活する案。子どもたちは戻ってもいいと主張したが「リセットを押せば何でも元通りというのは、やっぱり違う」。親としての思いを込めた。切なさがにじむラストシーンは、大切なメッセージを幼い心に刻み込む。

 独学で勝ち取った初めての大賞受賞に「初めは信じられなかった」と喜びを語る。愛用のペンネームは処女作の登場人物からとったものだが、「ストーリー? 稚拙でとても語れません。でもいつかは形にして世に出したい」と今後の創作に意欲を見せた。

優秀賞  もりお みずきさん

挑戦3度「まるで奇跡」

もりおさん(写真)

もりお・みずき 本名・友利昭子(ともり・しょうこ)。昭和20年沖縄県生まれ。聖心女子大卒。

 「まるで奇跡。息が詰まるような喜びを感じました」。柔らかな口調で受賞通知の瞬間を振り返る。三度目の挑戦でようやく手にした栄冠だ。

 間もなく九歳の誕生日を迎える主人公、あゆみの家庭は認知症のバアバ(曾祖母)を引き取ったことで壊れ始めていた。以前はニコニコ笑っていたバアバも今では「大きな古い人形のよう」。その姿に怖さすら感じるあゆみだったが、誕生日の晩にある出来事が起きて…。死の恐怖を知った少女は、あらためて家族のつながりの温かさをかみしめる。

 実際に認知症の義母をみとった経験から「年老いて、すべてが変わってしまったように思えても、その人の本質や人柄は決して変わらない。そのことが幼い子どもたちにも伝わればうれしい」と話す。

 定年まで宮古島の高校で国語教師を務めた。五十歳を前に“第二の人生”を考え、好きが高じて始めたのが童話の創作だ。沖縄県で開催される公募童話賞「琉球新報児童文学賞」「ふくふく童話大賞」でともに最高賞を受賞した。

 宮古島には古くから伝わる民話やわらべ歌がたくさんある。「でも風土を生かした創作童話は少ない。これからも身近な題材を基に書き続け、島に児童文学の種をまく人になりたい」と夢を語った。

優秀賞  蒼沼 洋人さん

繊細なタッチでつづる

蒼沼さん(写真)

あおぬま・ようと 本名・西池洋人(にしいけ・ようと)。昭和55年北海道生まれ。早稲田大卒。

 「わたしの髪はみどり色だ」。印象的な言葉で始まる物語は子どもたちにとって厳しい現実が描かれる。亡き母を慕って髪を染め続ける少女きいは、中学受験を前に黒髪に戻すよう言われ、反感を覚える。加えて父が経営する、心のよりどころだったスーパーの前に競合店がオープン。そんな時、級友の中本くんが半ば育児放棄されていると知る。

 「どうしてこんなにも(中略)わたしたちのまわりは、どうしようもないことばかりなんだろう」。つぶれそうな心を抱えた二人の子どもが、希望を見いだすまでの過程を繊細なタッチでつづる秀作だ。

 「結局、二人を取り巻く現実は変わらない。けれど心の中は変わる。その変化がたとえ小さなものであっても、生きていく上で大きな意味を持つことがあると伝えたかった」

 高校では文芸部に所属し、大学も文学を専攻。創作を始めたのは二年ほど前からだ。出勤前や音楽、映画鑑賞の後に着想を得ることが多いが、今回は「夢の中に題名や主人公の顔などが断片的に現れ、寝起きにあわてて書き留めた」と明かす。個性的な人物設定にひかれるが「特別意識はしなかった。普段から興味を持った言葉や場面は、極力メモするようにしてきたことが生きたのかも」と控えめだ。

 初めての受賞に「両親も『文才は親譲りだ』と喜んでいる」と笑う。「これからも創作と向き合う時間を大切に、小説を書き続けていきたい」