受賞者インタビュー

母娘の感情掘り下げる

入賞・高田 はじめさん

高田 はじめさん(写真)

琢真ちゃんを抱きながら「この子がいなかったら今回の作品は書けなかった」と語る高田さん=東京都江戸川区の自宅

プロフィル

たかだ・はじめ 1979年生まれ。筆名は生まれ故郷である新潟県の旧高田市(現上越市)と誕生月の1月にちなんでいる。県立新潟女子短大(現新潟県立大)卒。

 「子どもって本当に成長が早い。できることがどんどん増える」。そう言って見やったのは、一人息子の琢真ちゃん(3)。「お母さん」と甘えたり、だだをこねたり、一緒にいる全ての時間が宝物だ。子育てを通して、親と子の両方の気持ちが分かるようになった。「この子がいたから生まれた作品なんです」

 入賞作は「親子の絆」をテーマにした。和紙工房で働くシングルマザーの「私」は、小学生の娘と耳の手術をめぐって言い争ってしまう。互いに思いやる気持ちをうまく言葉にできないながらも、少しずつ心を通わせていく。「親子でも衝突することがある。でも、分かり合える瞬間が必ず来る」。誰もが持つ似たような経験を通して母娘の感情を掘り下げようとした。

 題名の「かんぐれ」は、新潟県長岡市で受け継がれる「小国(おぐに)和紙」独特の製法。すいた紙を雪に埋め、春を待つ。手間は掛かるが、ひと冬を耐えることで強さと美しさが増す。和紙作りの工程と母娘の成長を重ね合わせた。

 古書を修復する職人の話を書こうと取材するうちに古里・新潟の小国和紙を知り、題材を変えた。「五感を駆使して書くことにこだわった」と、紙すきも体験。リアルな描写に生かそうとした。

 作家を志望している。きっかけは、地元の短大時代に文芸部に所属したことだった。SF風の短編が友人に褒められ、創作の喜びを知った。上京し、不動産会社に勤めながらエンターテインメント系の公募文学賞に長編の投稿を重ねた。その間、会社の先輩だった将稔(まさとし)さん(37)と結婚。公募で結果を出せないまま、家庭に入り、妊娠、出産。家事と育児に追われる毎日になった。

 そんなときに知ったのが、30枚を対象にした北日本文学賞だった。短編なら家庭と執筆が両立できるのではないか。そんな思いから2011年に初めて応募。前回は2次まで進んだ。次こそはと、北日本文学賞一本に絞って書き上げたのが受賞作だった。

 一度だけ創作を諦めようとしたことがある。「23歳のとき、ずっと応援してくれた母が亡くなり、目標を見失いかけた」。作家になりたいと相談したとき、反対する父に代わって背中を押してくれた。何も手が付かなくなったが、物語を紡ぐと心が癒やされた。不思議と落ち着き、自分の世界に没頭できた。「私にはこの道しかない」

 執筆のためパソコンに向かうのは、琢真ちゃんが眠っている間の午前3時半からの2時間。夫の応援もあり、手が掛からなくなったら再び長編に挑むつもりだ。夢はライトノベルの作家。「今回の受賞でようやくスタートラインに立てた。自分を信じ、心躍る物語を生み出したい」

共感する大切さ伝える

選奨・片岡 真さん

片岡 真さん(写真)

かたおか・まこと 1972年東京都生まれ。高知南高校卒。「ゆらぎ」で第28回大阪女性文芸賞受賞。

 6度目の応募で選奨に手が届いた。これまでは4次通過が最高。「少し内容が暗いかなと心配していた。迷いながら苦労して書いた作品を評価してもらいうれしい」

 「茄子色のダムの底」は、別れた夫から「無駄が多い」と嫌みを言われ続け、トラウマを抱える女性が主人公。立ち直りのきっかけをつかめずにいたが、息子のある行動で心境に変化が起きる。描きたかったのは、相手を認め、共感することの大切さだ。「物事にはいろいろな見方ができるはずなのに、最近はすぐレッテルを貼りたがる。無駄なものなんてない、どんなことにもちゃんと意味があるというメッセージを込めました」

 小さいころから本が大好きで、学校の図書室に通い詰めた。ジャンルを問わず片っ端から読んだ経験が、小説を書く基礎になっている。30歳で執筆を本格的にスタート。10年前から公募文学賞に挑戦し、入賞や入選を重ねてきた。支えは志を同じくする投稿仲間。合評会やネット上で感想を言い合い、文章力や構成力を磨いてきた。

 子育ても一段落した今、エンターテインメント系のプロ作家を目指して、日々、パソコンに向かう。「空想の世界を広げられるところが創作の楽しさ。読み終えて気持ちが明るくなる作品を書きたいですね」

善悪だけでない人間模様

選奨・大澤 桃代さん

大澤 桃代さん(写真)

おおさわ・ももよ 1956年東京都生まれ。「アユミといっしょに」で第20回小川未明文学賞優秀賞。

 「お嫁さん」は、7年前の習作が基になっている。予定していた作品の執筆が行き詰まったこともあり、大幅に書き直して応募した。複雑な人間模様の物語にはモデルがいる。「身近な人だったので、発表する気持ちになるまで時間が必要だった」

 物語の中心にいるのは、長い不倫関係の末、還暦を過ぎて結婚した女性。奔放かつ遠慮のない性格で、好かれる要素は少ないはずだが、不思議と憎めない魅力を放つ。「人っていけないと分かっていても、やってしまうところがある。でもみんな心当たりがあるはず。だから引きつけられるのかもしれない」

 周囲も彼女に翻弄(ほんろう)されながら、現実をありのままに受け入れる展開にしたのは「それが人間」だと思うから。「物事は単純に善悪で割り切れない」

 息子の大学卒業を機に、2007年ごろからカルチャー教室に通い、小説を書き始めた。現在は児童文学同人誌の代表を務め、昔話や民話を子どもたちに語り聞かせる活動もしている。

 北日本文学賞は2度目の応募。「自分のやってきたことは少しは正しかったのかな」と胸をなで下ろしつつも、「これに満足せず、これからも書き続けたい」と、頭は既に次回作のことでいっぱいだ。