万葉タンカービレ
 短歌を通じて郷土の魅力を発信するイベント「万葉タンカービレ」が8月31日、9月1日の2日間にわたって県内で開催されました。「タンカービレ」は、短歌を詠うことと、音楽用語で「歌うように」を意味するカンタービレを掛け合わせた造語。万葉集に多くの思いを残した越中国守・大伴家持にちなみ、新たな短歌文化を富山から発信していく思いが込められています。全国から富山の風土をテーマにした短歌を募集したほか、吟行や講演会、トークセッションなど多彩な催しが行われました。県(高志の国文学館)、北日本新聞社主催。富山県歌人連盟後援。

 万葉タンカービレでは、2013年7月に「富山の風土 —山と川、そして海—」をテーマに短歌作品を募集。歌人の穂村弘さん、黒瀬珂瀾さん、石川美南さんが応募された力作を審査しました。
 9月1日には、高志の国文学館(富山市舟橋南町)で一般の部と学生の部(大学生・専門学生以下)、吟行の部(吟行参加者)を対象とした表彰式を行いました。  また、8月31日に行われた吟行では、東京や京都など、全国八つの学生短歌会に所属する約30人が、歌人の穂村弘さん、黒瀬珂瀾さん、石川美南さんとともに参加。高岡市の雨晴海岸など県内3カ所を巡り、富山の美しい自然や豊かな風土を題材に歌を詠みました。

 ここでは、各部門で最優秀賞、審査員賞、入選を果たされた方々の作品をご紹介いたします。

第一回 万葉タンカービレ 表彰短歌作品 テーマ「富山の風土 —山と川、そして海—」 選者/穂村弘、黒瀬珂瀾、石川美南

一般の部 作品総数360点
一般の部 写真
一般の部の最優秀賞、審査員賞受賞者と
選者の穂村、黒瀬、石川3氏
最優秀賞
ひとふは人のこころが見え分かぬゆゑかに濃き春霞 佐野 善雄
審査員賞"
《穂村選》
幼子のひたいの氷嚢おもほえば山脈くだりてとどきし水か 村山 千栄子
灯籠は遠いところをめぐりつつ舌へ近づくきときとの鰤 岡田 幸生
《黒瀬選》
海の上に雪の連峰遠がすみ雨晴の朝しづかに明くる 上田 洋子
くろぐろと連峰闇に沈めどもさきにさす一瞬のかげ 櫻野 ムツ
《石川選》
沢杉に生れしものみな静かなり 光と水に身をゆだねつつ 五十里 弥生
「青き恋」即座に却下せし父は初夏の立山黒部に誘う 辻 喜代子
入賞
《穂村選》
早月川はやつきの河岸段丘北斜面 四月を待ちて群れ咲く 島崎 泰弘
天平の少女にほひし庄川よ 蒼き流れに鮎躍りゐる 森 純子
富山湾の神秘か謎か底にわく真水の問答ソクラテスする あべ まさこ
大鍋で沸かす薬湯の香をり立ち 大岩山に修行者集う 浦山 芳美
確信犯で乗り越す心 氷見線を下って行けば1時間目「海」 月野 桂
屏風だつ後立山うしろたてやま書きちらす言葉のやうに雲生れて散る 尾原 永子
雪渓のざらめの雪を水筒にザリザリ詰めてまた登り出す 佐伯 悦子
越中の富山の薬置き箱は今でも残る押入れの中 札谷 篤
富山柿食らう雲水軒の下 海を横目にトンネル潜る 佐藤 春夫
川の面を羽搏はばたき走るにおどりの しぶきに裂ける入りつ日のかげ 藤原 峯子
スーパーへ橋わたりゆく「冷川つめたがわ」ちゅぶた川と呼びこの地に根付く 高木 律子
かりこりと玉石洗うさざなみに 翡翠もとめる人の群れたる 平井 信一
地場産のカマボコだとかゴタゴタの重さ感じてこそ引き出物 篠田 公夫
折ふしに峰の名教えし亡夫つまの声 ふと聞こえ来る立山りて 福島 美子
わたくしが室堂山のイワヒバリではない証拠を見せてください 島 なおみ
ふうわりとちんぐるまの羽毛身にのせて立山ねむる月光のなか 明石 幹雄
遠山は雲ひとつ生み精霊のぬけがらのごと昼の月浮く 山崎 真寿子
《黒瀬選》
梅雨晴れを朴の葉ゆらぎ白き雲流るるみつつ湧くもののあり 片山 玲子
虚空より名もなき青を受信してひかりたたえる蜃楼の湾 大橋 一恵
守るためにここにゐるのだ屋敷林の杉くつきりと逆光に立つ 平岡 和代
欠伸したシーラカンスが岩陰に潜む気がする蜃気楼の海 熊無 良子
寝転んでテレビを見たら動かない母かと思うあの立山を 島 なおみ
段丘の高きに出でし縄文の土坑は疎ら神通川に沿ふ 平瀬 悠清
立山もみず田も隠す霧襖のなかより白き朝日子のぼる 牧田 昌美
あしつきを採ると乙女の立ちし瀬に男の子ら立てり鮎を捕らんと 山森 和子
何処からも湧かぬ土なり長靴に鍬に付きしを畑へ還へす 池口 敏子
雄神川を泳ぐ形に串打てば西瓜のように香る若鮎 江尻 映子
神通川鮎解禁の朝明けに夏の暑さを腰まで冷やす。 別所 武
遠き地へ子は転勤しだだ広き家にさはさはあゆの風渡る 寺山 田鶴子
では明日わが家の2階で会いましょう無口なカモメも待ってますから 島 なおみ
《石川選》
夏みかんむいてもむいてもあなたは遠く立山連峰こんなに気高い 寺田 まさみ
屋根雪を下ろし切れずに振り仰ぐ立山剱岳つるぎは金色に映ゆ 寺田 まさみ
雪除き雪除きして生き来たるこの地に住み馴れしたたかとなる 秋村 トミ子
一匹の蛍に誘われ歩み寄る菖蒲のまわりに小さな家族 大西 邦子
山深き祖母谷ばばだに川の川底に噴く湯もさらり渓流となり 中村 よしゑ
人生の真ん中流るる神通川深く激しく母へと還す 寺田 富子
雨の日も癖で東の空を見る立山のいる気配に惹かれ 道 草太郎
越の潟に掛かる大橋 家持の夢にはあらじ 渡りゆく車 金山 隆悦
峡谷のVは黄に朱に赤に染み深まる秋をとじこめている 関 明日香
ホタルイカてあしにともす青い灯は遠いひとへの愛しいシグナル 長田 かほり
立山の凍てつく流れ掬すれば万年雪の香り広がる 富田 憲二
曙に稲の声聞くつまなれば泥より出でで甘き米生る 山中 美智子
おそらくは人より多し魚、燕、富山をふるさとといふもののかず 山中 美智子
夕映えの袴腰はかまごし山へとゆるやかな孤を描きつつ飛行機雲延ぶ 嶋 文子
天の川 立山の上に帯なせり五濁を越えて夫子に逢ひたし 長岡 瑩子
塩堤走りて眺む川面には鮎釣り人の影映えて見ゆ 秋原 伸行

学生の部 作品総数274点
学生の部 写真
学生の部の最優秀賞、審査員賞受賞者と
選者の穂村、黒瀬、石川3氏
最優秀賞
蟹の爪ひからびている海岸に薄墨色の雲を数うる 安達 洸介
審査員賞"
《穂村選》
少しだけ飛び込んでみたくなる緑 黒部の水はくらくら光る 中島 咲
《黒瀬選》
ホタルイカ命の灯り消えるまでゆらりゆらりと波間にゆれる 村上 奈穂
海深く 富山のたから ふつふつと うんまい水が 命をつくる 浅羽 恵里香
《石川選》
白エビは甘エビよりも甘いらしいママに教えて今日は天丼 魚屋 真衣
庄川の きらめく水面に 映るのは 固い意志もつ 一人の少女 岡村 玲奈
  ほか1名
入賞
《穂村選》
朝もやに響く漁師のせりの声コバルトブルーの海が波打つ 室谷 清乃
雲の色を たしかめたくて 水平線 大きな海の はじまりに着く 安達 洸介
雪国に三角屋根の恋心落としに来たの積もる想いを 青野 光太
足あとや行き倒れのコークの缶白を手に取りがばと注いだ 青野 光太
高岡駅銅器の風鈴鳴り響く音色の数は夏の数 飴井 美咲
夏の朝ペダル踏み越え呉羽山水色蜻蛉涼しげに添う 竹井 友霞
夏風や川のせせらぎなでていく水面の葉つぱ海をめざして 阿部 百花
ゆらゆらと風鈴の音響いてる自分の中に溶け込んでゆく 蛭川 巴絵
花水木貴方にはまだ遠いけどいつか届く日が来ますように 細野 馨生那
桜木の元に集まる太陽と流れる水は恋の初まり 長嶋 舞華
波蹴つて束ねた髪の行く先に太陽注ぐ夏のシグナル 中村 実恵
黄金に 輝く中に 剣岳 君に恋した この国道で 山本 真輝
《黒瀬選》
立山の天国か地獄か夕暮れにオレンジ色にはえる曼荼羅 手塚 朋子
ときどきは海になりたい 白波のようにさざめく冬の白岳 本山 まりの
海底の切り株浅く腰かけて二千年でもきみを待ってる 早馬 麻衣
風吹けば山もおぼろに揺らめけり夏の香を待つ早苗の中に 小竹 尊晴
山脈はしずかに空へ溶けながらこの街にまた真夏の匂い 鈴木 加成太
立山の 鋭く連なる 太刀を見て おさめようとも おさまりきらず 原 隆浩
浜開き 夏が始まる この日には 決まって顔出す 雄々しき立山 山下 里絵
氷見高校 窓を開ければ 見えてくる 海から生える 立山連峰 山本 彩海
アイトラム つないでいます 愛と夢 新湊市と 高岡の町 久湊 愛佳
おいしいよ 富山のますのすし食べに のってこられま 新幹線に 松浦 あゆみ
朝起きて目覚めるそばに渡り鳥ふわふわ飛んで見えなくなつて 松田 百恵
午後三時人差し指にかかる虹たどつた先に太陽笑う 佐々木 玲緒
富山から 毎日キトキト 海の幸 年中食べても あきることなし 丹野 颯人
《石川選》
涼風が微かに音たて頬なぞる百年先もこのままであれ 能島 貴之
プラタナスの 幹にもたれて 深呼吸 日焼けしらない 初夏の立山 岡村 玲奈
せまりくる 暑さにうなされ 夢を見た いちごシロップ かかった立山 山本 聖菜
初夏の岸の大風追いかけて海まで続け葉桜並木 廣川 千瑛
景色はただ白と淡黄一列の巡礼のごと地獄谷を行く 廣川 千瑛
張りつめた荒磯海に 鳴くかもめ鳥 目先に見えるは ゆらぐ太陽 山口 春香
都会の地 航空写真を観て喜ぶ 自分家観ると ああ緑い 谷吉 桃香
綺麗な名水 連なる山々 名を名のらずともわかるだろう 谷吉 桃香
有磯海すずやかな風と波の音 光を浴びてガラス展のよう 伊藤 早恵
天からの 光弾いて 小矢部川 鱗目映ゆい 龍に化けたり 寺嶋 洵
登山中岩だと思い見つめると愛しい姿の雷鳥親子 寺嶋 洵
夜近くノートを捨てて筆を置き夏を描いたパレットの中 西澤 希子
鏡にはおじの話がしみ入てる夏の思い出みにしみる 澤井 祐紀乃
少しだけ早起きをして窓あけるいつもと違う景色広がる 貞松 菜々子
日焼けして肌にぬりゆく冷たき日色黒ぬけて色白となる 山口 紗弥加
僕は行く 川に沿って行く 山を背に 潮の匂いを 嗅ぎながら行く 中港 智香
  ほか9名

吟行の部 作品総数48点
吟行の部 写真
吟行の部の最優秀賞、審査員賞受賞者と
選者の穂村、黒瀬、石川3氏
最優秀賞
これは誰が呼んできた風草原くさはらの遊具あかるくあなたを拒む 吉田 瑞季
審査員賞"
《穂村選》
海、晩夏、白き貝殻、いづれにも触れられなくてゆく雨晴 藪内 亮輔
《黒瀬選》
母の死に予定日ありやうすらかに吾を取り囲む立山連峰 三上 春海
《石川選》
風にまむかうとき嗚咽のような喉 鷺の高度の展望台に 川野 芽生

信号機たちのまっすぐ立ち尽くしている富山は故郷にみえる 浅野 大輝
どちらでも海は海ではあるらしく今日は日本海に怒られる 浅野 大輝
あぁあれはさみしくもしあわせな夢だったのでしょう常虹の滝 浅野 大輝
震動は震動ですが、糸電話よりも近くで聞いてください 浅野 大輝
ふれぬまま夏を終へしがいま足を海にひたして思ひを逃がす 山階 基
あしもとに日々の流れの変わりめは来ると貝殻たちがささやく 綾門 優季
なまぬるい気配のみちる洞窟に貝の亡骸いや、ただのから 綾門 優季
両足を波間の砂にしづめれど求めてゐたし山の日差しを 濱松 哲朗
幼さは山のリズムを知つてゐるアスレチックの綱の軋めば 濱松 哲朗
砂浜に埋もれて永き祈りあり貝殻に電球に花火に 鈴木 加成太
糸電話に愛を語るなささやけばことさら風に奪われやすき 鈴木 加成太
フィリピン産ブラックタイガー回しつつ「廻る富山湾」という寿司屋 鈴木 加成太
「めでたし」のその先にある風景と思いつつ歩きゆく「天湖森」 鈴木 加成太
人間とたはむれてゐる人間とたはむれてゐる磯のさざ波 三上 春海
貝殻をふまずに歩むわたしの足をおほふニューバランスのぼろ靴 三上 春海
恩寵を内に湛ふる岩山に腰を下ろして富山を聞けり 三上 春海
あかぐろく掠れて咲けるあぢさゐは天湖森といふ不思議な場所に 藪内 亮輔
潮騒さえもやさしい夜は白えびを噛み殺すごとくちづけをせよ 本山 まりの
港とは失う場所だ 船音をつめたいからだで待つきりんたち 本山 まりの
森に追う黒き蝶ふいに消え失せばましろき羽紋のみが残りぬ 柳 文仁
知らぬ間に君の視線を閉じこめて(とぶ)しゃぼん玉しろき岸辺に 柳 文仁
同じ波 指をひたした一瞬をあなたの岸辺から盗む夜 早馬 麻衣
同じ波 指をひたした一瞬を銀の如雨露に閉じこめる夜 早馬 麻衣
きつく眼を閉じれば透ける血脈の赤 あれこそが夏だったのだ 北 なづ菜
数千の死を踏みしめる足の裏 あなたは海にもう還れない 北 なづ菜
日本海にあなたの聴いている声がディーゼルに消え八月がゆく 宮﨑 哲生
流れても流れても砂の王国を少年は産む日本海を背に 宮﨑 哲生

万葉カンタービレ事業に関するお問い合わせは、北日本新聞社 営業部 TEL.076-445-3320